Lシステインとは
Lシステインは二日酔い予防、美容(美白)、糖尿病などに効果があることで知られる栄養素です。その他、あまり知られていない用途として、 医薬品、酸化防止剤、香料(厚生労働省参考:天然果汁、パンなど)としても利用されています。
特に頭痛、吐き気といった二日酔いの原因となるアセトアルデヒドの分解については、 他の栄養素と比較しても1、2を争うほど効果が高く、 この特性により、 アルコール中毒の予防・治療、禁酒の補助などにも利用されます。
国内では、Lシステインを主成分とした ハイチオールCが、 二日酔い予防薬として、 ウコンやアラニンと同様に広く普及しています。
ここではLシステインについて、 二日酔いを中心とした効果と、 Lシステインを多く含む食べ物、サプリメント、摂取量、副作用などについて紹介しています。
Lシステインは非必須アミノ酸
Lシステインはメチオニンから作られる
Lシステインは、非必須アミノ酸です。「非」必須アミノ酸であることから、それ自体を摂取する以外に、 必須アミノ酸である「メチオニン」を摂取することで、 体内で合成することもできます。
N-アセチル-L-システインとの違い
Lシステインとよく混同される栄養素として、 「N-アセチル-L-システイン」、「Lシスチン」、「エチオニン」、「L-システイン塩酸」など非常に多くの種類があります。これらは、システインの誘導体です。
誘導体とは、ある母体(ここではLシステイン)に対して、 構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物を指します。
このLシステインの誘導体である N-アセチル-L-システインは、アセトアミノフェンの過剰摂取や慢性閉塞性肺疾患の治療に用いられ、 WHO(世界保健機関)の必須医薬品の1つに指定されています。
Lシステインの二日酔い予防効果
Lシステインの二日酔い・お酒に対する効果
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アセトアルデヒドの分解を早める
Lシステインはアルコールの分解速度を早める働きがあります。これは、 Lシステインが、アセトアルデヒドと共有結合し、 無毒の2-メチルチアゾリジン-4-カルボン酸化合物に変化するためです(※1)。
1990年、日本で行われた研究(※2)によると、 Lシステインは水溶液中で41.3%、 ヒトの血液中で47.0%、アセトアルデヒドを減少させました。
また、 エタノールを与えたラット(体重1kgあたり2gのアルコール、体重60kgの人間に換算するとビール約3Lのアルコール量に相当)に、 システイン(DとL)とアラニンを投与したところ、 システイン(DとL)を投与したラットでは、 より早く体内からエタノールを消し、 血液、肝臓、脳中のアセトアルデヒド濃度が低いままでした。
参考:
※1:2009年 Peana,AT(イタリア サッサリ大学)「L-システインによるエタノール由来アセトアルデヒド誘導性モチベーション特性の削減」
※2:1990年 日本 S,Tsukamotoら「マウスにおいて急性アルコール中毒に対するアミノ酸の効果:血液や組織中のエタノール、アセトアルデヒド、酢酸、アセトンの濃度」
※1:2009年 Peana,AT(イタリア サッサリ大学)「L-システインによるエタノール由来アセトアルデヒド誘導性モチベーション特性の削減」
※2:1990年 日本 S,Tsukamotoら「マウスにおいて急性アルコール中毒に対するアミノ酸の効果:血液や組織中のエタノール、アセトアルデヒド、酢酸、アセトンの濃度」
アルコール中毒を予防・治療し、禁酒を助ける
Lシステインはアルコール中毒の予防や治療、禁酒にも効果があります。上記研究によると、 「L-またはD-システイン、L-アラニンは、過度の飲酒による急性アルコール中毒に効果がある」と発表しています。
また別の研究(※1)によると、 ラットのエタノールによって誘導される鼻突行動(水を飲むしぐさ)が、 生理用食塩水(プラセボ)では効果がなかったものの、 Lシステインを与えられたラットでは、 有意に減少しました。
この結果から、 「Lシステインは、飲酒行動(回数)の減少、(1回あたりの)エタノール(アルコール)摂取量を減少させることで、 アルコール依存症患者におけるエタノール摂取量を減らすための治療法の開発のための新しい行を開くことができる。」と発表しています。
参考:
※1:2010年 Peana AT(イタリア サッサリ大学)ら「L-システインはラットにおいて、経口エタノール自己投与とエタノール飲酒行動の反復を削減する」
※1:2010年 Peana AT(イタリア サッサリ大学)ら「L-システインはラットにおいて、経口エタノール自己投与とエタノール飲酒行動の反復を削減する」
肝臓保護
Lシステインはいくつかの代謝経路があり、 最も有名な代謝物が抗酸化作用のある「グルタチオン」(後述:Lシステインの抗酸化作用)ですが、 そのほかに、硫化水素とタウリンの生産にも利用されます。タウリンはアルコールやアセトアルデヒドで傷ついた肝臓を保護する効果のほか、 アルコール性肝疾患の予防・回復、アルコール依存症の予防、脂肪肝の予防と回復にも効果があるため、 間接的ではあるものの、Lシステインは肝臓保護効果を有します。
Lシステインを多く含む食品
Lシステインは家禽、卵、乳製品などの食品に多く含まれます。また、Lシステインは、 体内(細胞内)ではLシスチンの形で存在しますが、 チオレドキシンや還元型グルタチオンにより、 Lシステインに還元されるため、 Lシスチンを多く含む食品も効果的です。
Lシステインを多く含む食品
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参考:
メリーランド大学 医療センター
メリーランド大学 医療センター
サプリメント
Lシステインを手軽に摂取できるサプリメントも複数販売されています。Lシステインのより効果の高い摂取方法
Lシステインはチアミン(ビタミンB1誘導体)、ビタミンCと一緒に摂取するとより効果的です。海外で行われた研究(※1)によると、 アセトアルデヒドLD50マウス(アセトアルデヒドの大量投与により50%が死ぬ用量)と LD90マウス(同90%が死ぬ用量)に対して、 Lシステイン、チアミン、生理用食塩水(プラセボ)を投与したところ、 プラセボでは効果がなく、 Lシステイン単独では80%の生存率であったのに対して、 Lシステインとチアミン(ビタミンB1誘導体)の組合せは、 100%の生存率になるほどの改善がありました。
また、別の研究(下記ご参照)では、 アスコルビン酸(ビタミンC)、Lシステイン、チアミン(ビタミンB1誘導体)の組合せは、 タバコによる毒性を有意に減少させ、保護する効果がありました。
ただし、チアミンとビタミンB1はその作用が異なるため、 ビタミンB1より、 武田薬品工業のフルスルチアミン(ビタミンB1誘導体)や他のチアミン(ベンフォチアミンなど)のほうが、 Lシステインとより相性が良いかもしれません。
参考:
※1:1974年 Herbert Sprinceら「Lシステイン、チアミン、L-2-メチルチアゾリジン-4-カルボン酸によるラットにおけるアセトアルデヒドの毒性に対する保護」
※1:1974年 Herbert Sprinceら「Lシステイン、チアミン、L-2-メチルチアゾリジン-4-カルボン酸によるラットにおけるアセトアルデヒドの毒性に対する保護」
Lシステインその他効果
Lシステイン その他効果
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抗酸化作用
Lシステインは、抗酸化作用のあるグルタチオンの前駆体(元となる物質)です。代謝により、抗酸化作用のあるグルタチオンが産出されます。
皮膚の代謝促進、美白
Lシステインは皮膚や爪、髪などに多く含まれます。厚生労働省によると、 Lシステインは皮膚の代謝を正常化する作用があるとしており、 また、ハイチオールCの販売元であるエスエス製薬によると、 L-システインはビタミンCと協力して、 シミの原因となる過剰なメラニンの発生を抑制する、 過剰にできてしまったメラニンを無色化する、コラーゲンの生成などにも効果がある、としています。
糖尿病
2009年に発表された研究(※1)によると、 ズッカー糖尿病脂肪(ZDF)ラットに対して高カロリー食を与え、 Lシステイン、生理食塩水(プラセボ)を補充し比較したところ、 Lシステインは、肝臓において、 NF-κB、Aktの活性を阻害しました。その結果、 生理食塩水(プラセボ)では、高カロリー食の影響により、 空腹時血糖、糖化ヘモグロビン、CRP、およびMCP-1が上昇したのに対して、 Lシステインは、 グルコースの血中レベル(18%)、 糖化ヘモグロビン(8%)、 CRP(23%)、 MCP-1(32%)、 インスリン抵抗性(25%)などの改善が見られました。
これら結果より、 「Lシステインは、糖尿病動物モデルにおいて、NF-κBの活性化を防止することにより、 血糖や糖尿病における血管炎症のマーカーを下げることができる」と発表しています。
参考:
※1:2009年 Jain SK(ルイジアナ州立大学健康科学センター)ら「L-システイン補給は、ZDF糖尿病ラットの肝臓において、血糖値、糖化ヘモグロビン、CRP、MMP-1、酸化ストレスを低下させ、NF-κB活性化を阻害する」
※1:2009年 Jain SK(ルイジアナ州立大学健康科学センター)ら「L-システイン補給は、ZDF糖尿病ラットの肝臓において、血糖値、糖化ヘモグロビン、CRP、MMP-1、酸化ストレスを低下させ、NF-κB活性化を阻害する」
大腸炎
Lシステインは大腸炎をはじめ炎症性腸疾患(IBD)、胃腸管の慢性炎症に効果があります。大腸炎の症状の軽減とLシステインの関係を調査した研究(※1)によると Lシステインはアポトーシスの活性化、炎症反応の減衰、免疫細胞の感受性の回復などの効果がありました。
その結果、「Lシステインは、 炎症性腸疾患の治療のための新規戦略となるかもしれない。」と述べています。
参考:
※1:2009年 Kim CJ(カナダ ゲルフ大学)ら「大腸炎ブタモデルにおいて、L-システイン補給は局所の炎症を減衰させ、腸の恒常性を復元する」
※1:2009年 Kim CJ(カナダ ゲルフ大学)ら「大腸炎ブタモデルにおいて、L-システイン補給は局所の炎症を減衰させ、腸の恒常性を復元する」
タバコによる毒性からの保護
タバコには複数の毒性物質が含まれます。その1つが、二日酔いと同じアセトアルデヒドですが、 その他、アクロレイン、ホルムアルデヒドなども含まれます。
1979年に行われた研究(※1)によると、 ホルムアルデヒドに対しては、効果は部分的であったものの、 致死量のアクロレインに対して、 アスコルビン酸(ビタミンC)、Lシステイン、チアミン(ビタミンB1誘導体)により、 生理食塩水(プラセボ)では5%の生存率であったのに対して、 これらの組合せにより90%に改善しました。
参考:
※1:1979年 Herbert Sら「喫煙に関連する:アセトアルデヒド、アクロレイン、ホルムアルデヒド毒性に対するL-アスコルビン酸、 L-システイン、アドレナリン遮断薬による保護の比較」
※1:1979年 Herbert Sら「喫煙に関連する:アセトアルデヒド、アクロレイン、ホルムアルデヒド毒性に対するL-アスコルビン酸、 L-システイン、アドレナリン遮断薬による保護の比較」
精子の運動性の向上
タイでの研究(※1)によると、凍結保存されたイノシシの精液に対して、 Lシステイン単独、またはLシステインとDHAに富む鶏卵卵黄の組合せにより、 精液の質、特に前進運動と先体完全性が改善されました。参考:
※1:2009年 Chanapiwat P(タイ チュラロンコン大学)「凍結保存されたイノシシの精液の質に対するDHAに富む鶏卵の卵黄とL-システイン補充の影響」
※1:2009年 Chanapiwat P(タイ チュラロンコン大学)「凍結保存されたイノシシの精液の質に対するDHAに富む鶏卵の卵黄とL-システイン補充の影響」
慢性気管支炎
喫煙や肺気腫などによるせきやたんの症状に有効です。Lシステインを毎日400mg服用したところ、気管支炎を原因とする発作の数を減らすことが研究で明らかにされました。
その他
厚生労働省によると、 白血球減少抑制、脾障害の防護などにも効果があるとされています。Lシステインの摂取量上限と副作用
Lシステインの摂取量上限は明確に決められていません。厚生労働省の「医薬品のリスクの程度の評価」によると、 Lシステインを含む医薬品であるハイチオールC(Lシステインとして1回160mg)を例に、 食事以外での1日3回の経口摂取量480mgを副作用なし(ただし、高齢者で減量の必要あり)としています。
同じく厚生労働省によると、 Lシステインの重篤ではないが、注意すべき副作用のおそれとして、 0.1~0.5%未満で悪心、 0.1%未満で下痢、口渇、軽度の腹痛をあげています。
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