アルコール分解能力を知る
アルコールの分解能力には個人差があります。このアルコールを分解する能力の差は、 遺伝子(具体的には酵素)によって決まり、 アルコールに強い人と弱い人では、およそ75倍(以下詳細あり)の差があります。
また、 この個人の遺伝子(酵素)の違いは、アルコールに対する体質となり、 二日酔い対策、アルコールの飲み方、アルコール中毒対策も少しずつ異なります。
ここでは、アルコールを分解する能力を決める アルコール脱水素酵素(ADH)、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)について、 特徴、人口割合などについて、紹介しています。
アルコールを分解する能力を決めるのは3種類の酵素
人はアルコールを「アルコール(エタノール)」 → 「アセトアルデヒド(毒性)」→ 「水・酢酸など(無害)」の順序で分解(代謝)し、体外へ排出します。このアルコール、および、アセトアルデヒドを分解する能力を決めるのは、 主に3種類の酵素です。
アルコールを分解するアルコール脱水素酵素(ADH)
アルコール(エタノール)を分解するのは、 アルコール脱水素酵素(ADH)です。ADHは全部で7種類(ADH1~ADH7)あるものの、 主にアルコール代謝に関与するのは、ADH1(別名:ADH1A)、ADH2(別名:ADH1B)、ADH3(別名:ADH1C)です。
このアルコール脱水素酵素(ADH)には、個人差があるものの、 アルコールを分解する能力にはそれほど大きな差はありません。
アセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)
人体に有害であるアセトアルデヒドを分解するのは、 アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)です。ALDHは全部で19種類(2016年現在)存在し、個人差が存在します。
アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)は19種類
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特にALDH2に大きな個人差が存在し、 その分解能力の差は、強い人と弱い人では、 75倍以上になることもあります(下記参照)。
アセトアルデヒドは人体に有害であるばかりでなく、 二日酔いや悪酔い、肝臓への損傷をもたらすことから、 ALDHの個人差は飲酒、健康、飲酒後の対策に大きく影響します。
その他CPY2E1など
その他、アルコールおよびアセトアルデヒドを分解する酵素は、 CPY2E1やカタラーゼなどです。また、一部のアルコールやアセトアルデヒドは分解されず、 そのまま尿として排出されます。このCPY2E1(チトクロームP450 2E1)は、 脂肪酸の代謝のほか、体内の有毒化学物質、有毒環境物質、 発癌物質の解毒を担当しており、 飲めない人(下戸:ALDH2の活性が弱い)が飲めるようになるのは、 このCPY2E1の働きによるものです。
アルコール分解能力と個人差
アルコールおよびアセトアルデヒドを分解する酵素には、 個人差が存在します。特に、有毒なアセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)のうち、 ALDH2に大きな個人差、能力差が存在し、 このALDH2の活性が弱いと、二日酔いや悪酔いをしやすくなります。
ALDH2の3つのタイプ、ALDH2の活性が弱いとアセトアルデヒドを代謝できない
ALDH2には、3つのタイプが存在します。白人や黒人は主に「ホモ接合(野生型)」(強*強)の遺伝子をもち、 アセトアルデヒドの分解能力に優れます。
しかし、日本をはじめ東アジア人種では、アセトアルデヒドを分解する能力が弱い遺伝子(変異型)を持つ人が50%程度存在し、2つとも変異型の遺伝子を持つ「ホモ接合(変異体)」(弱*弱)の遺伝子を持つ場合、 アセトアルデヒドをほとんど分解することができません。(正確には、ALDH2では代謝できず、CPY2E1の働きに頼ることになります。)
※アルコールやアセトアルデヒド分解能力が高い遺伝子を*強、低い遺伝子を*弱と表現しています。
世界でALDH2不活性の遺伝子は東アジアの一部のみ
ALDH2の3つのタイプ
タイプ | 内容 | 人口割合(日本人)(※1~3) | 分解能力(※3~5) |
ホモ接合(野生型) | 強*強 | 50~60% | 1(基準値) |
ヘテロ接合(変異体) | 強*弱 | 35~40% | 1/24 |
ホモ接合(変異体) | 弱*弱 | 0~5% | 1/75 |
参考:
※1:1998年 Takao A(長崎大学)「アルコール誘発性喘息およびアセトアルデヒド脱水素酵素-2遺伝子型との間の相関」
※2:2005年 栗原 久「日本人の顔貌とアルコールパッチテスト反応とは関連するだろうか」
※3:吉原達也(九州大学)「ALDH2 遺伝子多型と臨床医学」
※4:2009年 Giia-Sheun Peng(台湾)「血中アセトアルデヒド濃度に対するアルデヒドデヒドロゲナーゼALDH2*2及びアルコール脱水素酵素ADH1B*2の対立遺伝子変異体の効果」
※5:1994年 Mizoi Y (大阪医科大学)「アルコール代謝の個人差におけるアルコールおよびアルデヒドデヒドロゲナーゼの遺伝子多型の関与」
備考:人口割合
※1~3の研究において、ホモ接合(野生型)は57%、60%、50%強であったため、50~60%としています。
※1~3の研究において、ヘテロ接合(変異体)は40%、35%、40%弱であったため、35~40%としています。
※1~3の研究において、ホモ接合(変異体)は3%、5%、1%未満であったため、0~5%としています。
備考:アセトアルデヒド分解能力
※3~5の研究では、 同じ遺伝子でも、 対象とした被験者(個人)により、 ALDH2のアセトアルデヒド分解能力は異なっていました。
ホモ接合(野生型)の分解能力を基準とした場合、 ヘテロ接合(変異体)は、1/200~1/23、 ホモ接合(変異体)は、1/79~1/18の幅がありました。
これら幅のうち、最頻値に近しい値を分解能力として表示しています。
※1:1998年 Takao A(長崎大学)「アルコール誘発性喘息およびアセトアルデヒド脱水素酵素-2遺伝子型との間の相関」
※2:2005年 栗原 久「日本人の顔貌とアルコールパッチテスト反応とは関連するだろうか」
※3:吉原達也(九州大学)「ALDH2 遺伝子多型と臨床医学」
※4:2009年 Giia-Sheun Peng(台湾)「血中アセトアルデヒド濃度に対するアルデヒドデヒドロゲナーゼALDH2*2及びアルコール脱水素酵素ADH1B*2の対立遺伝子変異体の効果」
※5:1994年 Mizoi Y (大阪医科大学)「アルコール代謝の個人差におけるアルコールおよびアルデヒドデヒドロゲナーゼの遺伝子多型の関与」
備考:人口割合
※1~3の研究において、ホモ接合(野生型)は57%、60%、50%強であったため、50~60%としています。
※1~3の研究において、ヘテロ接合(変異体)は40%、35%、40%弱であったため、35~40%としています。
※1~3の研究において、ホモ接合(変異体)は3%、5%、1%未満であったため、0~5%としています。
備考:アセトアルデヒド分解能力
※3~5の研究では、 同じ遺伝子でも、 対象とした被験者(個人)により、 ALDH2のアセトアルデヒド分解能力は異なっていました。
ホモ接合(野生型)の分解能力を基準とした場合、 ヘテロ接合(変異体)は、1/200~1/23、 ホモ接合(変異体)は、1/79~1/18の幅がありました。
これら幅のうち、最頻値に近しい値を分解能力として表示しています。
アセトアルデヒド分解能力は両親からの遺伝で決まる
このアセトアルデヒドを分解能力を左右するALDH2の能力を決めるのは、 血液型と同じ両親からの遺伝です。この遺伝子は父・母から1つずつ遺伝子を譲り受け、 以下の3パターンのいずれかのALDH2を持つことになります。
ALDH2と親の遺伝
父(母) | 母(父) | アセトアルデヒド分解能力 | お酒の強さ |
ALDH2*強 | ALDH2*強 | ホモ接合(野生型)(強*強) | アセトアルデヒド分解能力に優れ、お酒に強く、お酒を最も楽しめる体質。 |
ALDH2*強 | ALDH2*弱 | ヘテロ接合(変異体)(強*弱) | アセトアルデヒド分解能力は1/24程度。 アセトアルデヒド(毒)が体内に徐々に蓄積される。 お酒は飲めるが、二日酔いになりやすい。 |
ALDH2*弱 | ALDH2*弱 | ホモ接合(変異体)(弱*弱) | アセトアルデヒド分解能力は1/75程度。 アセトアルデヒド(毒)をALDHではほとんど分解できない。 アルコールに慣れると徐々に飲めるようになるのは、 他の酵素(CYP2E1)を働かせ、代謝しているため。 すぐに顔が紅潮するほか、悪酔い、二日酔いしやすい。 |
自分のタイプを見極める
アルコール(エタノール)および、アセトアルデヒドの分解能力の簡易的な判断方法について、 紹介しています。アルコール分解能力を見極める方法
アルコール分解能力は、唾液や血液検査でないと正確に見極めることはできません。簡易的に見極める方法は翌朝の呼気アルコール量を測ることです。
アルコールを分解する能力が低いため、 翌朝も呼気にアルコールが残りやすく、息がお酒臭くなることが特徴です。
またアルコールの分解が始まるまでの時間が相対的に長いため、 すぐに顔にでない、最初の一杯目で顔が赤くなったりしにくい、 などがアルコール分解能力が低い人の特徴です。
アセトアルデヒド分解能力を見極める方法
アセトアルデヒド分解能力を見極める方法は、パッチテストが一般的です。70%のエタノールをガーゼなどに染み込ませ、 上腕の内側に7分間貼って10分後の皮膚の色で判別します。
精度は概ね90%以上です。
アセトアルデヒド分解能力を見極める方法
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ご家庭で正確にチェックできる分析キットも多数販売されています。
お酒・アルコールに対する適正を知って対策する
二日酔いになりやすい人
アセトアルデヒドは、二日酔いや悪酔いの原因です。そのため、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の活性が弱い人は、 二日酔いになりやすくなります。
アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きが弱い人の場合、 アセトアルデヒドの分解を促すサプリ が効果的です。
お酒が楽しめる人は慢性アルコール中毒になりやすい
お酒を最も楽しめる人は、 アルコールの分解能力が弱く、アセトアルデヒドの分解能力が強い人です。これは、アルコールによる気持ちの良い時間が長く続き、 毒性のあるアセトアルデヒドを素早く分解してくれるからです。
ただし、このタイプはお酒を飲むことが非常に楽しいため、 慢性アルコール中毒になりやすい、という統計があり、 反対に、 アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の活性が弱い人は、 アルコール依存症になりにくい、というメリットもあります。(※1)
参考:
※1:2007年 Eng MY(カリフォルニア大学)「アジア人におけるALDH2、ADH1B、およびADH1C遺伝子タイプ」
※1:2007年 Eng MY(カリフォルニア大学)「アジア人におけるALDH2、ADH1B、およびADH1C遺伝子タイプ」
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