アルコール摂取後に取るべき栄養素
二日酔い、大量飲酒、慢性飲酒では、 身体から非常に多くの栄養素が失われます。これは、アルコールの主成分が水、エタノール、砂糖の混合物であるため、 身体に必要な栄養素を提供してくれないことのほか、 おつまみなどを摂取しても、 アルコールによって吸収が阻害される、過剰に排出される、 解毒に栄養を必要とする、などが原因です。
ここではアルコールによって失われる栄養素と、 その症状、摂取・補給、について紹介しています。
二日酔いに効く栄養素は別途二日酔いを予防する食べ物をご参照下さい。
アルコールと栄養 なぜ栄養素が足りなくなるのか
アルコールにより栄養が不足する主な原因は以下の通りです。
アルコールと栄養不足
|
吸収阻害
アルコールによる栄養素の吸収阻害は、 胃、腸、膵臓などの損傷による吸収阻害と、 肝臓での代謝の競合が原因です。アルコールは胃や腸の吸収を担う細胞を弱らせるほか、 膵臓の消化酵素(膵液)の働きを抑制します。
このアルコール摂取が慢性化すると、 膵臓の細胞を破壊し、アルコールは膵炎の最も多い原因となっています。
また、多くの栄養素は肝臓で代謝されますが、 アルコールは体にとって毒素であるため、 毒素の排出(アルコールの代謝)が優先されることにより、 いくつかの栄養素(ビタミンA、ビタミンB、炭水化物など)では、代謝の競合により吸収が阻害されます。
消化
アルコールおよびアセトアルデヒドの解毒には大量の栄養素を必要とします。- アルコールの分解酵素を生成するのに必要とされる栄養素
- アルコールによって損傷した肝臓の修復に利用される栄養素
- アセトアルデヒドと化学反応する栄養素
排出
アルコールには利尿作用があります。多くの栄養素はアルコールによる排尿時には、 その排出量が抑制されるものの、 ナトリウム、カルシウム、亜鉛などはいくつかの栄養素は、 飲酒中は過剰に排出されます。
排尿による水分補給は、 二日酔い予防には必須であるものの、 これら過剰に排出された栄養素は補えないため、 脱水症状を引き起こします。
脱水症状を防ぐ水分量、栄養素についてはアルコール計算機~分解時間と血中濃度~をご参照下さい。
供給不足
飲酒時には栄養が不足しがちです。これは、 慢性アルコール中毒者に見られるように、栄養そのものが不足する場合と、 アルコールによって上記作用(吸収阻害、消化、排出)の結果、 通常時よりも多くの栄養素が必要とされるためです。
アルコールによって失われる栄養素
アルコールの影響により不足する一般的な栄養素は以下の通りです。
アルコールにより失われる栄養素
|
|
アルコールで失われる栄養素と二日酔いの関係
いくつかの栄養素の不足は二日酔いおよびアルコールに関わる幾つかの症状の原因となります。ビタミンA
アルコールの消費は、ビタミンA(レチノイド、レチノール)に影響を与えます(※1)。これは、アルコール中毒者の多くがビタミンAの枯渇を特徴とするほか、 健常者であってもアルコールの摂取が臓器・組織におけるビタミンAのレベルに影響を与えるためです。(※2)
このアルコールによるビタミンAの欠乏は、 肝臓において、ビタミンAがアルコールの代謝と競合するため(酵素の一部が同じなど)と考えられており(※2)、 肝レチノール量が脂肪肝で1/5、肝炎や肝硬変の場合1/10以下(※1)になってしまうほどです。
ビタミンA欠乏の症状は、夜盲症、眼球の乾燥などです。
ただし、 アルコールによるビタミンA欠乏に対して、 ビタミンA摂取の効果は、未だ不明です。
また、ビタミンAは脂溶性であるため、 サプリメントでの慢性摂取、過剰摂取は毒性となるため、十分な注意が必要です。
参考:
※1(図含む):1982年 Leo MA「アルコール性肝障害における肝ビタミン枯渇」
※2:2012年 Robin D. Clugston「ビタミンA代謝に及ぼすアルコールの影響」
※1(図含む):1982年 Leo MA「アルコール性肝障害における肝ビタミン枯渇」
※2:2012年 Robin D. Clugston「ビタミンA代謝に及ぼすアルコールの影響」
ナトリウム
不足が深刻化すると頭痛、吐き気、食欲不振を引き起こします。
飲酒後にラーメンやお味噌汁など、 塩分濃度が高い食事が美味しいと感じるのは、 ナトリウムの不足によるものです。
このナトリウムの不足は「低ナトリウム血症」と呼ばれ、 アルコールにより低ナトリウム血症が起こる原因は、以下の3つと考えられています。
- アルコールの摂取により、体内で水分量だけが増加する
- アルコールの利尿作用が、ナトリウムの排出を促す(※2)
- アルコール性疾患(肝硬変、血流循環の減少など)の症状(※1)
このナトリウム不足を素早く解消するには、 経口補水液やスポーツドリンクが優れています。
二日酔いに効くスポートドリンクについては二日酔いに効くドリンク一覧をご参照下さい。
また、アルコール依存患者の多くは、低ナトリウム血症を有します。
ある研究(※1)では、アルコール依存患者の17.3%で低ナトリウム血症が見られ、 この原因は、血液量の減少のほか、栄養素の不足(ナトリウムを含む)、 高脂血症や高タンパク血症(偽性低ナトリウム血症)、 アルコール離脱による振戦せん妄、肝硬変、などが原因となっています。
参考:
※1:2000年 George L.Liamis()「アルコール患者における低ナトリウム血症の機序」
※2:1988年「スコットランドの心臓の健康調査における尿中電解質排泄、アルコール消費、血圧」
※3:1963年「マグネシウムおよび他の電解質の尿中排泄に対するエタノール投与の効果:アルコール依存症と健常者において」
※1:2000年 George L.Liamis()「アルコール患者における低ナトリウム血症の機序」
※2:1988年「スコットランドの心臓の健康調査における尿中電解質排泄、アルコール消費、血圧」
※3:1963年「マグネシウムおよび他の電解質の尿中排泄に対するエタノール投与の効果:アルコール依存症と健常者において」
カリウム
特に休肝日を設けずに飲酒を続けると、 カリウム不足を起こしやすく、 何もしていないのに足がつる、こむら返りが起こるといった症状が出ることがあります。
このカリウムの不足の原因は、 マグネシウム不足に起因するものと考えられており、 「低マグネシウム血症」と「低カリウム血症」は共依存することが知られています。(※3)
また、カリウムには血圧低下作用がありますが(※2)、 7,000人以上の日本人を対象としたアルコール、カリウムと血圧の関係を調べた研究(※1)によると、 アルコールそのものが独立して血圧に影響するほか、 カリウムの喪失が血圧の上昇に大きな影響を与えていました。(※1)
カリウムが多く含まれる食品は、 パセリ、昆布、わかめなどが優れています。
また、お酒の中では赤ワインがカリウムが最も多く含まれ、 幾分カリウム不足を防ぐことができます。
参考:
※1:Michael H.「食事でのアルコール、カルシウム、カリウム:血圧に対する独立、併用効果」
※2:「アルコール多飲による低カリウム血症性ミオパチーの1例」
※3:2002年 Elisaf M(ギリシャ)「アルコール依存症患者の低カリウム血症」
※1:Michael H.「食事でのアルコール、カルシウム、カリウム:血圧に対する独立、併用効果」
※2:「アルコール多飲による低カリウム血症性ミオパチーの1例」
※3:2002年 Elisaf M(ギリシャ)「アルコール依存症患者の低カリウム血症」
糖分
飲酒による糖分の不足によって起こる 「アルコール誘発性低血糖症」は、 二日酔いによる疲労症状の原因の1つです。このアルコール誘発性低血糖症は 糖分そのものの不足によるものではありません。
アルコールの代謝(解毒、分解)に肝臓が利用されるため、 肝糖新生をはじめとするブドウ糖の産生が、 アルコールによって低く抑えられるためで、 その他、膵臓の働きの低下などが指摘されています。
「アルコール誘発性低血糖症」は、 糖尿病患者では良く知られる(医師より指導を受ける)症状であり、 糖尿病の薬(インスリン製剤など)と併用すると、 重度の低血糖を誘導し、 最悪のケースでは、死亡、脳神経の損傷を導く可能性があります。(※2)
この低血糖症の解消には、 糖分を摂取する以外に、 低血糖症の直接の原因となっているアルコール(アセトアルデヒド)を素早く体内から除去することが効果があります。
参考:
※1:1963年 Norbert Freinkel「アルコール性低血糖Ⅰ:臨床アルコール性低血糖症患者の炭水化物代謝と純エタノール症候群の実験的再現」
※2:1968年 Ronald A.「不可逆的な低血糖 アルコールとインスリンの合併症」
※1:1963年 Norbert Freinkel「アルコール性低血糖Ⅰ:臨床アルコール性低血糖症患者の炭水化物代謝と純エタノール症候群の実験的再現」
※2:1968年 Ronald A.「不可逆的な低血糖 アルコールとインスリンの合併症」
ビタミンB1(チアミン)
これはエタノールがチアミンの吸収そのものを阻害する(※1)ほか、 アルコール摂取時の食事にチアミンが多く含まれる食品が少ないためです(※3) (豚肉やレバーなどがチアミン含有量が多い)。
また、チアミン(ビタミンB1)は、 アルコールを代謝する肝臓で必要とされるほか、 二日酔いの予防薬であるLシステインと非常に相性が良く、Lシステインと組み合わせることで、 アセトアルデヒドの分解能力を著しく向上させます。
そのため、アルコールを飲む人には、 チアミン(ビタミンB1)は必須の栄養素です。
チアミンが不足すると、脱力感、疲労感、情緒障害のほか、 長期欠乏では脚気(かっけ)、記憶力の低下、集中力低下、無気力、睡眠障害、 さらに重度になると心不全(※4)、神経障害、ウェルニッケ脳症(コルサコフ精神病を含む)(※2)などが見られるようになります。
参考:
※1:1980年 Hoyumpa AM Jr.「慢性アルコール中毒でチアミン欠乏のメカニズム」
※2:2004年 「アルコール依存症患者におけるビタミンB_1投与」
※3:2013年 Rees E(オーストラリア アデレード大学)「補充チアミンはまだアルコール依存において重要である」
※4:2013年 オランダ「心不全におけるアルコール摂取とチアミン欠乏の関係」
※1:1980年 Hoyumpa AM Jr.「慢性アルコール中毒でチアミン欠乏のメカニズム」
※2:2004年 「アルコール依存症患者におけるビタミンB_1投与」
※3:2013年 Rees E(オーストラリア アデレード大学)「補充チアミンはまだアルコール依存において重要である」
※4:2013年 オランダ「心不全におけるアルコール摂取とチアミン欠乏の関係」
その他ビタミンB
ビタミンB12はアルコール30g(ビール中瓶1.5本程度)あたり、 5%の減少(※1)が見られ、 また、アルコールの摂取と葉酸の欠乏を調査した研究(※2)によると、 葉酸欠乏はアルコール性肝疾患(ALD)の原因となっています。
ビタミンBは「抗疲労」、 「アンチストレス」に効果のある栄養素であるため、 ビタミンBが不足すると体が疲れやすくなったり、だるさを感じます。
葉酸はレバー(牛、豚、鳥)やアブラナ科の野菜に多く含まれ、 また、ビタミンB12は貝類(しじみ、赤貝、あさりなど)に多く含まれます。
参考:
※1:2004年 Laufer EM(ペンシルバニア州立大学)「閉経後の女性における葉酸とビタミンB12状態に対する適度なアルコール摂取の影響」
※2:2002年 Halsted CH(カリフォルニア大学)「アルコールと葉酸の代謝の相互作用」
※1:2004年 Laufer EM(ペンシルバニア州立大学)「閉経後の女性における葉酸とビタミンB12状態に対する適度なアルコール摂取の影響」
※2:2002年 Halsted CH(カリフォルニア大学)「アルコールと葉酸の代謝の相互作用」
カルシウム
大量飲酒では、 尿中カルシウム排泄を増加させることによって、 体内のカルシウムの損失を引き起こすだけでなく、 カルシウム代謝に影響を与える副甲状腺ホルモンや成長ホルモンに影響を与えることにより、 骨の形成を阻害し(※1)、骨粗しょう症の原因となります。
特に若年層(成人含む)での大量のアルコール消費は、 劇的に骨の健康に影響を与え、 その後の人生で、骨粗しょう症のリスクを増大させます(※1)。
しかし、長期ではない、あるいは適度な飲酒(軽度~中等度)は、 むしろ骨形成に役立ち(骨密度を増加させ)、 更年期以降の女性の骨粗しょう症の改善にも効果があります。(※2)
参考:
※1:H.Wayne Sampson,Ph.D「骨にアルコールの有害な影響」
※2:1993年 Holbrook TL(カリフォルニア大学)「アルコール摂取と骨密度の前向き研究」
※1:H.Wayne Sampson,Ph.D「骨にアルコールの有害な影響」
※2:1993年 Holbrook TL(カリフォルニア大学)「アルコール摂取と骨密度の前向き研究」
亜鉛
しかし、慢性的にアルコールを飲む人では、亜鉛の欠乏は一般的です(※2)。
これは、アルコール摂取によって、 血中亜鉛濃度が高くなり(※1)、 尿中の亜鉛濃度が高くなるためです。(※2)
その結果、 アルコール摂取により、亜鉛が不足します。
また、亜鉛がアルコールによって失われるだけでなく、 亜鉛が欠乏すると、アルコールの摂取量を多くしてしまいます。
ラットを使った実験では、 亜鉛が欠乏していたグループが自発的に摂取したアルコール量は、 他のグループと比較して有意に高くなっていました。(※3)
そのため、飲酒習慣がある人だけでなく、 アルコールを控える必要がある場合には、 亜鉛は必須栄養素となっています。
参考:
※1:1985年 Dinsmore WW(カナダ クイーンズ大学)「亜鉛吸収に対するアルコールの影響:ラット小腸灌流を用いた研究」
※2:1983年 Craig J「アルコール中毒者における亜鉛欠乏:レビュー」
※3:1984年 Collipp PJ「ラットの自主的なアルコール摂取時の食事の亜鉛欠乏の影響」
※1:1985年 Dinsmore WW(カナダ クイーンズ大学)「亜鉛吸収に対するアルコールの影響:ラット小腸灌流を用いた研究」
※2:1983年 Craig J「アルコール中毒者における亜鉛欠乏:レビュー」
※3:1984年 Collipp PJ「ラットの自主的なアルコール摂取時の食事の亜鉛欠乏の影響」
アルコールで失われる栄養素 先頭へ |
メニュー・目次へ |